[自転車横断帯No.02] 常識を捨てて『付近』の解釈を試みる

唐突ですが、民法には、「善意」「悪意」という単語がよく出てきます。
皆様は、これらの単語を目にしたとき、どういったものを想像するでしょうか。
法律を少しでもかじったことがある方でしたら、あぁあれのことねとピンとくるでしょうが、おそらく多くの方は、「親切心」とか「悪巧み」とか、そういったものを想像されることでしょう。
しかし、民法における意味は、端的に申せば「知らない」「知ってる」であります。
日常生活上の言葉遣いからすれば、ちょっと想像できないような意味ですが、しかし法律用語とはそういうもの、日常の常識にとらわれてしまったまま法律を読めば、時としてとんでもない勘違いを犯してしまいかねません。
そして、このシリーズで取り上げている道路交通法第63条の7第1項で用いられている『付近』についても、ひょっとしたら同じことが言えるかもしれません。
法第63条の7第1項で用いられている『付近』を、常識にとらわれたまま解釈してしまっては、ひょっとしたらとんでもない誤解をしてしまう恐れがあります。

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道路交通法第63条の7
自転車は、前条に規定するもののほか、交差点を通行しようとする場合において、当該交差点又はその付近に自転車横断帯があるときは、第17条第4項並びに第34条第1項及び第3項の規定にかかわらず、当該自転車横断帯を進行しなければならない。
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道路交通法に従った通行を心がけていらっしゃる優良自転車利用者の皆様でしたら、おそらくこの条文に対して、何らかの疑念を抱いていらっしゃることでしょう。
しかし、実際に自転車横断帯(「らしきもの」を含みます。)[*1]を目にすれば、その多くは、交差点(と感じている区域)[*2]から数メートル、せいぜい5メートルくらいしか離れていないように見えます。
常識的に考えれば、数メートル〜5メートル程度の距離は、十分に『付近』の範囲内です。
常識を尊重するならば、法第63条の7第1項に対して抱いた疑念は、引っ込めざるを得なくなってしまいます。

ですがちょっと待って下さい。
せっかく法律に対し疑念を抱いたのであれば、常識的思考のみを根拠にその疑念を引っ込めては、もったいないというものです。
せっかく法律に対し疑念を抱いたのであれば、法律に則った解釈を試みて、疑念に対する結論を導こうとするのが、(社会)科学的精神というものです。
何しろ、法律用語には時として常識が通じません。
常識を捨てて解釈を試みれば、何かが見えてくるかもしれません。

ここで、中には法律と聞いただけで拒絶反応を起こされる方もいらっしゃることでしょう。(私も、法律系資格のはしくれの試験を受験する前はそうでした(笑)。)
しかし、こと道路交通法は日常生活に密着した法律、また多くの方が運転免許試験を通じて一度は修得しているはずのもの、他の法律に比べればそれほどハードルが高いわけではありません。
実際に道路を通行しているときのことを思い浮かべながら、改めてこの条文を読み、そして常識にとらわれない解釈を試みてみるのも、なかなか楽しいかもしれません。

常識にはとらわれない解釈・・・かつて私がそれを試みたとき、私の思考は、次のような感じで進みました。

 付近かどうかを判断する際、通常は、「○メートル以内だから『付近』だ」「○メートル以上離れているから『付近』ではない」と考えがちである。
   ↓
 実際、道路交通法第12条第1項[*3]における『附近』については、裁判例の影響で、30m以内であると一般には言われている。
   ↓
 しかし、道路交通法第63条7第1項の『付近』を解釈する場合には、「○メートル以内だから」と考えてはならないのではないか。
   ↓
 では一体『付近』とは何だ・・・っていうか、そもそも誰が付近かどうかを判断するんだ。
   ↓
 ・・・はっ! 付近かどうかは、自転車運転者が自ら判断しなければならないんじゃないか!?

そうです。
道路交通法第63条の7第1項は、自転車運転者が交差点に接近した際に、自転車横断帯を発見したならば、まずはそれがこの条文で言うところの『付近』に該当するか否かを自己判断し、その上で付近に該当すると確信したならばその自転車横断帯を通らなければならない・・・というものなのです。
あまりに当たり前と言えば当たり前のことで、このことになかなか気付くことができなかったのは、端くれとは言え法律職者としてまことに赤面ものです。
しかし、まぁいずれにしろ、この根本原則に気付くことができ、とりあえず第一段階クリアとなりましたことです。

なお、自己判断ならば各自が勝手に判断しても良いのかと問われれば、法律はそう甘い世界ではなく、相当の理由をもって判断しなければなりません。
そこで次回は、道路交通法における「自己判断」について説明させて頂きたいと思います。


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ここから先はオマケのお話。

上で道路交通法第12条第1項における『付近』は30m以内と言われている旨のことを書きました。
また、以前の記事で、自転車が道路を横断(交差点の通過とは異なります。)をする際は、目安として30m以内に自転車横断帯がある場合にはその自転車横断帯を通らなければならないと言われている旨のことを書いたことがございます。

(その以前の記事)
>> [自転車横断帯No.00] 単なる横断なら自転車横断帯を通りましょう

だったら、法第63条の7第1項の『付近』も、法第63条の6と同じように、30m以内ということなのではないか・・・と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
何しろ、隣り合った条文で、同じ『付近』という言葉を使っているのですから、意味も同じだろうと思われるのも無理からぬことです。

しかし、法第63条の7第1項には、『前条に規定するもののほか』という文言が入っております。
この文言があるということは、『前条(道路交通法第63条の6)の状況設定はさておき』という意味が含まれることとなります。
そのため、法第63条の7第1項でいうところの『付近』とは、前条(法第63条の6)でいうところのそれとイコールとは言えない、むしろ異なる状況設定である可能性を考慮すべきものとなります。
これについても、日常的な言葉遣いからするとなかなか難解に感じられることでしょうが、法律とはそういう風に読むものですので、そんなもんだと認識してください。
そのようなわけで、このシリーズで扱っている法第63条の7第1項の『付近』は30m以内であると自動的に解釈することは不適切となるわけでございます。
このあたり、法律をさらりとという程度にかじった方が陥りやすい部分と思いますので、オマケ話として書かせて頂きました次第です。



*1 自転車横断帯(「らしきもの」を含みます。)
標識令の様式に合致しておらず自転車横断帯としての効力そのものがない道路ペイントが実に多く、紛らわしいったらありゃしない・・・まことに困ったことでございます。
(関連記事) アホな自転車横断帯が改善されたが・・・

*2 交差点(と感じている区域)
交差点の範囲がどこまでかという話をし出すとキリがないのですが、道路交通法でいうところの『交差点』は、一般の方が思われているよりも狭い範囲だったりすることもございます。
適用される条文によっても交差点の範囲が異なってきたりするのが、またややこしいところですが・・・。

*3 道路交通法第12条第1項

(横断の方法)
第12条 歩行者は、道路を横断しようとするときは、横断歩道がある場所の附近においては、その横断歩道によつて道路を横断しなければならない。

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